ミツナリの軌跡

お店の中は冷えているから寝転ぶと気持ちいい
特に今日なんかもめっちゃ暑かったから
点検作業終わってすぐお店に入った
入り口で寝転がってたら
ガラッと扉が開いておばさんの足が振り下ろされた
「やべっ」
中身が出てしまうとこ寸前だった
いつもお店にやって来る優しいおばさんだ
「あんた、こんなとこ寝てたら踏んでしまうで！」

「踏みかけたやんけ」

いよいよだった
最初は隠れてたが葛藤もあった
このままでよいのかどうか
不潔猫のままで
いつも椅子に座ってる人のご飯が終わって
「ねこはおるか？」と遠くでおっさんのおばさんがさけんでいる
　　　"ねこ”てよ
左官屋の兄ちゃんですらみたきのミツナリって呼ぶぜ

裏口でつかまっていよいよ観念した
おっさんのおばさんは慣れた手つきで僕を抱えた
昔、何度か男前がいたらしかった
そのお風呂の役割だったらしい

なまぬるいバケツにつけられた
「いっ！」
手足がぬれたり雨にぬれたりは平気なのに
この感覚は何だ！
全身の毛がぶわっと広がり、ぴたっとひっつく
手荒く犬用シャンプーでごしごしやられた
オカマみたいな声が出た
そしてやはり手荒くバスタオルでごしごしと
気持ちいいのか悪いのかわからんまま終わった
くたくたでお店に来たら
お魚の薫製みたいな美味しいのをおっさんがくれた
うまかった〜

たぶんお風呂の後は薫製だぞという訓練だな
そういうとこはちゃんと見透かすぜ
僕はそこらへんのもんとはちょい違うからな

しかしお風呂はきらいだ　
スキになる努力もしない

『会議でうなってきたった』
とおっさんが帰ってきた
街の商工のやつやろね　きっと
あんま熱うならんときや
それより僕の明日のシャンプーのだんどり
しておくれ

めっちゃかゆい

不潔猫のままはいやや

われわれは毛がぼーぼーだから
ここ最近ほんまに暑い
お店の中庭はかなり避暑地で
ディレクターチェアはもう僕のものだから
涼しさ独り占めのはずだが　やはり暑い！
もうどろんどろんに融けている

花番頭が首輪を付けてくれたから
おノミさんは大丈夫だがまだかゆいから
ほかにもなんかいるんかもしれん
何せ毛がぼーぼーだからして
おっさんには悪いけど

不覚にもノミを発見されてしまった
なんかかゆいと思ってたが　そうだったなんて
僕のような都会育ちは無縁だと思ってたが
大都会水口にいてもノミがつく
ノミは偉大だ　首輪買ってもらう

まあそういうこともあるわな

おっさんのコンピュータが壊れたらしい
僕は花番頭のコンピュータにしか乗らないから
僕のせいでないことは明白だ
でもあれもでけへんこれもでけへんとうなだれている
人間は不便だね　僕の（花番頭の）G3はいたって元気

まあそんなこともあるわな　　　元気だしなよ